2010年 05月 23日
木更津では気動車標準色キハ30にしばし別れを告げ、内房線で今来た路を引き返し五井を目指します。 木更津からは再び113系に乗車。211系や209系で大分駆逐されたイメージがあっただけに、ちょっと拍子抜け?です。尤も別に113系が嫌いというわけではなく、房総ローカルといえばこのイメージがありますからむしろこれで当たり前なんですが・・・。 そして五井到着。これまで内房線の乗車行でここを通る度に何度も何度も目にしてきた小湊鉄道。今日はとうとうその乗車の機会に恵まれることとなりました。113系の去ったホームから待ちきれず「やって」しまいます。先刻のキハ30系気動車標準色とは配色といい塗り分けといい完全なコピーですが、それがまた国鉄キハ20をモデルにしたという小湊鉄道キハ200形にも大変似合っています。 小湊鉄道の基地はここ五井駅に隣接した五井機関区。 その構内奥に目をやれば・・・何だかオイシそうな貨車の姿が!これはちょっとヤバいですぞ(笑 さらにトタン造りも味わい深いクラの中には、何とキハ5800の姿が!まだ残っていた!本車は飯田線の前身の一部である三信鉄道の電動車として生まれ、買収後の制御車化を経て小湊入りし気動車になったという まさに変転の来歴を有する存在です。買収国電の現存例としても貴重ですが、それが気動車化されたものとなれば尚の事。車籍抹消後もこのように五井機関区で「保存」(公式サイトによる)されていることは大変喜ばしいことです。 もうどうにもこうにも待ちきれず、小湊鉄道への乗り換え跨線橋を上がります。そしてそこで私は暫し恍惚となりました。そう、小湊鉄道はあくまでも「社線」・・・今まさに国鉄から乗り換えんばかりのシチュエーションに胸が熱くなります。 そして小湊鉄道のホームに降り立てば・・・いるいる!どれも同じカタチばかりですが、空の広い構内にローカル気動車が屯するシーンはそう簡単にどこでも見られるものではありません。五月晴れと汗ばむくらいの陽気の中我を忘れ、テンションはヒートアップして行きます。 構内の隅で景気良く褪色しているクルマはキハ209。現在もキハ201~24の全車が車籍を有しているようですが、この209はご覧の有様で一部部品を外されていますから「部品供給車」としてのお勤めを果たしているといったところです。 ホームで撮影に夢中になってすっかり乗車券の購入を忘れていたのですが、そういえば改札口が先の跨線橋にもありませんでした。ではどこで乗車券を購入するのかといえばホームの終端部側跨線橋の下に駅事務所があり、ここでそれらを取り扱っています。一日フリー乗車券(¥1700)なるものもあるのですが、本日は後々の予定もあるのでとりあえず直ぐに出る上総牛久行で往復することとし、以遠の養老渓谷・上総中野方面はいずれの楽しみとしておきます。駅事務所では往復割引乗車券を求めましたが、これは隣の上総村上までも含めた線内全駅への設定があり、なんともきめ細やかな印象を受けました。ちなみに隣の上総村上までの往復は通常¥280、割引¥260、同上総牛久は通常¥1360、割引¥1230となっています。 乗車券を手にし早速客待ちのキハ207に乗り込みます。車体側面には輝く切抜き文字のCIロゴ、そして「耳付き」のサボが最高に泣かせてくれます。特にサボは両側面でちゃんと駅名の向きを変えてあって、先の万遍無い往復割引の設定からして何もかもが「良き時代のまま」な気がします。 これは構内で入れ換えを行っていた別のキハ200ですが、左右のクルマをよく比べてみますと客扉がプレス(左)と普通(右)とで差を見せています。同形式でよく言われる形態差としては「側客窓がユニット窓と普通窓の2種」が挙げられますが、このクルマのように普通窓グループ同士でもバリエーションが見られます。更に更に・・・乗務員扉をご覧下さい。その窓が設けれられている高さが違いますね(開口寸法は同一?)。キハ200形自体が長期間に亘って製造されていますからマイナーチェンジもむべなるかなですが、これは結構奥が深そうです。それと今回は確認できなかったのですが、キハ204のみベンチレータが「斜め角」(東武8000系の屋根肩にあるような形状)の仕様らしく、パッと見が同じようなスタイルだけにその意外な程の深度を有するキハ200のバリエーションには、いささか驚かされます。 やがて発車時刻となり、助役サンの発車合図を受けて上総牛久行のキハ207は五井のホームを離れて行きます。車内には簡易型のエアコンの姿があるものの使用時期ではないのか稼動していません。おかげでところどころ明け放たれた側窓から流れ込む涼風がこの上無く心地よく、冷房車に乗り合わせながらも「非冷房車バンザイ!」と叫びたくなるような心境です。 田植えの頃、五月のそよ風吹く総州の大地。単行の気動車は時折「パ──ァンッ!」とタイフォンを鳴らしながらジョイントを奏でます。オールロングに便所無しという点が異なるものの、国鉄キハ20の「生き写し」のような小湊キハ200に揺られる道中は、まさに記憶の中の「8月の小海線」ではありませんか。親父の実家である佐久は中込への毎夏の帰省時、「あさま」から小諸で乗り換えた小海線の気動車は当たり前ですがキハ52や58でした。煤けた床板に小汚いシート、エアコンなぞあるわけもなく排煙の匂い漂う車内は今にして思えば郷愁の対象ですが、当時の幼い私はきっとそんなことは露とも思わずラッチを摘んで力いっぱい窓を開け、邪魔に感じながらもボックスシート窓下の暖房カバーに足を乗せながら、「田舎へのディーゼルカー」の道中を楽しんでいたに違いありません。 小湊鉄道の車窓はまさにそんな憧景を甦らせてくれ、未来永劫戻ることのない良き昭和の御世の国鉄時代への感傷はどこまでも彷徨い、目頭が熱くなっていることに気付くのにそう時間はかかりませんでした。まだ植えられたばかりの若い苗は、やがて8月ともなればあの日のように背の高い立派な青々とした「実りの稲」となっていることでしょう。 列車は1両編成の単行ですが、ワンマン運転ではなくちゃんと車掌サンが乗務しています。無人駅からの乗客への乗車券販売など忙しいですが、これが本来の列車の姿なのでしょう。そして途中駅で目にする「小湊鉄道標準」とも言える木造の駅本屋やこれまた木製にして手書きの「駅名標」などは、私の足りない文面ではとても伝えきることのできぬほど魅力的です。近年というよりはここ十数年、合理化や機能化の進展よって実車趣味がつまらなくなったと正直私は感じますが、よもや首都圏近傍にこのようなロケーションとシチュエーションの非電化私鉄の在ったことに、私はもう放心状態でした。そう、それは紛れもない「極上非電化私鉄」そのものなのです。 やがて12:07、列車は終点の上総牛久に到着。乗客はゾロゾロと構内踏切を渡って駅本屋へと向かいます。この構内踏切もまた遮断竿や警報機の備わっていない昔ながらのもの。列車本数を考えれば必要性は疑わしいですが、安全面云々でとやかく言われる昨今にあってなんとも前時代的な設備には、心中大いに「萌え」てしまうのです。 こちらは更に先の上総中野方向を望んだもので、ここ上総牛久から上総中野まではタブレットを用いたスタフ閉塞による区間でして、途中駅に交換設備の名残りはあるものの一閉塞とされてしまっています。特に終着の上総中野までの便は平日4往復土休日6往復という少なさで、平日よりも土休日の便数が多いという点から見ても半ば観光路線化している実態があるようです。いずれは、いすみ鉄道への乗り継ぎによる「房総横断」もしてみたいですね。 駅前に出、その駅本屋を望みます。広めの駅前広場右手には路線バス2台が駐機中、左手にはタクシーの営業所があって客待ち顔です。 ゆっくりと時間が流れて行きます・・・。 ここで折り返しまでの間に昼食ということになり、先程の列車内から見えた看板を頼りに駅裏のR297沿いにある中華屋サンに入店。小湊鉄道に乗ってまでわざわざ中華でなくても・・・と思わなくもなかったですが、かといってオニギリ持参にしても痛み易い時期ですからね。そんなこんなで腹を満たして駅に戻り、ホームに止められている往路と同じ車両で五井に引き返します。 往路もお世話になったキハ207は1970(昭和45)年製、御歳40ちょうどです。これは帰宅してから知ったことですが、ここ小湊鉄道ではワンマン化の計画もあるようでして、その暁にはこれらキハ200形一族にも何らかの変化が生じるのではと思います。沿線の風光と併せて、小湊鉄道の魅力を存分に堪能するのは今がチャンスなのかもしれません。 五井に戻り、行きがけに目についたアヤシい貨車を間近に見るべく駅の裏手に回ります。こちらには小湊鉄道本社や労働組合事務所、五井機関区といった関係要所がひしめいていて、その建屋のどれもが質素だったり古びていたりと前時代的な雰囲気が漂います。その一角には画像のように蒸機が3両保存展示されています。小湊鉄道開業時の1・2号機と日本鉄道からの払下げというB104号です。残念ながら道路側からですので背中からの見学ですが、申し出れば敷地内での見学も可だったようです。 そして五井駅西側の外れにある踏切に到達・・・ありました。まるで「鉄コレ」から飛び出してきたような木造貨車です。素晴らしい!無蓋車には何かが野積みされているので、有蓋車ともども倉庫代用みたいなお勤めなのでしょうか。それにしても小湊鉄道のどこまでも「前時代的」っぷりさには本当に脱帽させられます。 そして無蓋車の端梁には・・・まさかコレ、バッファーの痕じゃないですよね? 五井駅に戻り、再び内房線で木更津を目指します。向かいのホームでは半日お世話になったキハ207が発車時刻を迎え、ゴロゴロと唸りを上げて上総牛久へと走り去って行きました。今回初乗車した小湊鉄道の印象はもう改めて記すまでもありませんが、およそ全ての鉄道ファンに鮮烈な印象を与えるであろう「今が旬」の鉄道線です。未乗の人もそうでない人も、ぜひ訪ねられては如何でしょうか。 以下、後編に続きます。
by ar-2
| 2010-05-23 16:07
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